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「そうだザルツに行こう」 〔海外での思い出:オーストリア〕

それは今年のまだ寒いころだった。いつもは新作映画の広告を流している、西武新宿駅を出たところにあるビルの巨大スクリーンに、映画俳優の死亡のニュース。子ども時代に夢中になった人の名と、ハンサムな老人の姿に足を止めた。映像では、髪型こそ昔と変わらないが、すっかりお婆さんになってしまった、ジュリー・アンドリュースが一緒に映っていた。クリストファ―・プラマー死去。91歳。80代で貰ったアカデミー賞は最年長だとか。でも、私の知っているのはもっと若い時だ。『サウンドオブミュージック』のトラップ大佐。リバイバル上映のとき、父と一緒に見たのが最初だった。山登りにしか連れて行ってくれなかった父が初めて見せてくれた映画だった。小学生だった私はすっかり夢中になった。サントラのテープを買ってもらい、聞き続けて寝た。全曲丸暗記し、今でも何曲かは、空で歌える。再上映の度に自分でも見に行った。
 社会人になって数年後に、私は夏休みを利用してオーストリア一人旅を決行した。インスブルックからザルツブルクを経由してウィーンまでの旅。オーストリア滞在は一週間ほどだったと思う。
 私のカルチャーショックは、インスブルックのコイン専門店での出来事。ショーウィンドウで気に入ったものを見つけて店に入った。日本にいたとき同様、「コインが欲しいのです」と言うと、店員から「この店にあるのはすべてコインだ」と言われてしまった。なるほど、その通りだ。日本では、まずお店で、「○○したいんですが……」と、言ってから具体的用件にはいる。店員も、それならどんなことがしたいのか聞いてくれる。おすすめのものを見せてくれたりもする。でもこれは日本だけの作法に違いない。気を取り直して、具体的にあのコインが欲しいと言って、購入することができた。
 そして、憧れのザルツブルク。人々は穏やかで心優しい。私が駅から旧市街まで歩いていると、地元の夫人がバスの回数券をくれた。遠慮していると、日本に友達がいるからと、言ってほほ笑んだ。心温まる思い出だ。
 しかし私はレストランで、また同じ過ちを犯した。「郷土料理が食べたいです」というと、「うちのメニューはすべて郷土料理だ」、なんでわざわざそんなことを言うのかという顔をされてしまった。でも、気を取り直し、店がすいていたので、窓側の川の見える席に移りたいというと、快くザルツァハ川がよく見える席に案内してくれた。
 ザルツブルクはこじんまりとしていて、丘に登れば映画さながらの街並みが見渡せる。目を上にやればホーエンザルツブルク城。スポンジに生クリームを塗った手作りケーキのようにゆったり佇んでいる。
 ホテルで出されるのはコーヒーではなく紅茶、魚料理を愛する人々は温和でフレンドリーだ。
 『私のお気に入り』の街、ザルツブルク。
 そのあと行ったウィーンはもっと奇麗だったが、京都のようで少し居心地が悪かった。
 コロナ禍が過ぎて、自由に旅行ができるようになったら、「そうだザルツに行こう」。(大内)


by hinokigaigo | 2021-08-04 10:15 | ひのきの講師