大学院進学クラスの読書感想文を読んで④

世界的な指揮者・小澤征爾氏の『小澤征爾 指揮者を語る 音楽と表現』(2012年、PHP研究所)が、今回の課題文です。

  

小澤氏は、「たとえ組織の中であっても、その人が何をやるか」、すなわち「その人の個性」が結局は大事であろうと語っています。

 組織と個人(=学生自身)の関係は、これから社会で活躍しようとする留学生にとって切実なテーマであるといえます。

小澤さんが、交響楽団という組織との関係でさまざまな苦難を経験されたことを知る学生がどれほどいるのかは置くとして、その感想文、とりわけ以下3名(XYZ)の感想文からは、自分と組織とが相いれるのかどうかという不安と、組織の中で個性を活かすことの意義を認識して真剣に考えようという誠実さ、そのあいだで葛藤する様子が表れています。

 

 学生Xは、社会が 「個性が欲しいという一方で、他者との協調性が欲しいというのはおかしい」と言っています。

学生Yは、小澤氏の本文の背景に、小澤氏が指揮者・音楽家であることを踏まえたうえで、「どんな組織の中に入っても、自分しかできないことを見つけるのは一番大事」だと、まとめています。

そして、学生Zは、「以前のオーケストラには指揮者はいなかった。それで、自分の演奏だけを考える演奏者たちに対応すべく、指揮者が生まれた」として、小澤氏の「個」を育てる/引き出す側の存在意義に注目しています。

 

およそ組織の中で上手に動こうとすれば個性は抑えざるを得ないし、反対に、個性を発揮しようとすれば、組織は機能させにくくなる…Xのように、理不尽な、あるいは矛盾した社会からの要求に対して不快感を表明したい思いは、留学生だけが抱いているわけではなく、現代人が共有できるものではないでしょうか。

他方、Yのように、「どんな組織に入っても」、つまり、ひょっとしたら“ブラック”かもしれない組織に属するはめになったとしても、自分の個性を活かそうとする姿勢の大切さを理性的に記している学生もいます。実際、組織にはさまざまな個性がひしめいており、嫉妬も羨望も、無理解も共鳴も、あらゆる想いが渦巻いて偶然のように組織としての意思が表明され、それがある個人に対して辛辣なこともあるし、そうでないこともあるわけです。そこが組織と個人の関係の難しいところです。一読して安定した感想が示すところは理想的ではあるけれど、Yのようなことを、私が実感できるようになったのは、比較的最近だという感じがしています。

  

 Zは、小澤氏の辿った道のりをイメージできる一番近い場所にいるように見えます。しかし、指揮者であることの難しさは、音楽家だけが味わうものとは限らず、実は、日本語教師(指揮者)と学生(演奏者)の関係性に通じるものがある、そのように私は感じました。

そうなると、この感想文の束は、もはや、学生を自立した社会人へと導くものどころか、すでに社会人であり、日本語教師という職業に就いている私が、組織の中の「個」として自分の存在意義が何なのか、実は、今もこれからも、自分に問い続けなければならないのだということを教える、処方箋のようなものだということがわかってくるのでした。(篠原)

 


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by hinokigaigo | 2018-10-01 15:46 | ひのきの作文授業