大学院進学クラスの読書感想文を読んで③

今回の課題文は、日本を代表する芸術家・岡本太郎の著書『壁を破る言葉』(2005年、イーストプレス)です。学生たちには、それぞれが「壁」だと感じたものに対してどうしようとしているのか、とりわけどんな「言葉」で「壁」を破ったか、あるいは破ろうとしているのか、感想文にしてもらいました。

 

ここでは、学生たちが岡本氏の世界観とはどういうものかに留意していることが望ましいと考えます。

すなわち、(1)岡本氏の文章から得た印象を、余計な語彙で飾り立てることにならないように受け止め表現することが大切です。岡本氏は、大人のように構えた、余計な表現の付け足しを嫌う方だと思うからです。あくまで、「素朴に、無邪気に、幼児のような眼をみは」ることで、「世界はふくら」むのです。

今一つは、(2)表題の「壁」とは何か、純粋にとらえることです。

実は、「壁」の受け止め方は、学生によって様々でした。例えば、私のイメージするのは、何の前触れもなく突如として目の前に立ちはだかったもの、それが「壁」です。学生たちにとっては、自分を守るために自分の意思で作るものであったり、遠慮の気持ちそのものが壁であったりするようです。さらにまたある学生は、日本語が上手に話せない原因それ自体が「壁」なのではなく、原因がわからないことから自分の心に生じる緊張感こそが「壁」なのだと、抽象的に展開しているユニークな文章を書いていました。

そんな中、学生Jは、自らが“壁を破る言葉”に出会った体験を書いています。“人は死への絶望的な感覚から、生きているということは時間を失っているということだと考えがちで、自分自身も元々そう思っていた。けれども、否、生まれたことで毎日時間を作っているのだという意見を、インターネット上で見つけ、その言葉に賛同する”と。Jは、岡本氏の主張に対して同意するという表現は一切していないのですが、結果として、岡本氏の文章に即した感想を表しています。まさに、「壁を破る言葉」という今回の教材と、学生自身の文章とが対面して、読む側に新しい気づきを促してくれそうな気がします。

 

私にとっても岡本氏は尊敬する芸術家です。子どもに帰るということ、純粋であろうとする姿勢に共感するからです。ある別の学生は”私たちを妨げているものを少しずつ減らせば、私たちは子どもに戻れるかもしれない”と記していますが、シンプルでありながら、心にとどまるフレーズだと思います。まさに、これからの人材を見守る日本語の教師としては、このことを肝に銘じなければなりません。

 

岡本氏の著作や作品にふれることで、学生たちの想像力が鍛えられ、心豊かに生きるヒントを得てくれると、日本の教師として幸せです。戦争のない、絶望的な過ちを再び起こさない社会であるように願って、暑い8月の教員室にて今日も仕事中の私です。(篠原)
 


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by hinokigaigo | 2018-08-07 10:10 | ひのきの作文授業